不動産投資の世界でよく議論になるのが、この「頭金問題」です。
具体的に議論になるのは
- 頭金を入れるべきか
- 入れるならいくらいれるべきか
です。
個人的にこれは答えが出ていて、それは「ケースバイケース」です。
不動産投資において頭金を入れるメリット
そもそも、不動産投資の世界において頭金を入れるメリットとは何なのでしょうか?
それは
- 借入総額を減らす
事です。
借入総額を減らす事によって
- 銀行からすれば融資がしやすくなる
- 毎月のキャッシュフローを改善する
という効果が得られます。
頭金を入れると、銀行が融資しやすくなる
例えば銀行評価4500万円の物件に対して、販売価格5000万円、頭金1000万円で4000万円のローンを組むという事であれば、銀行からすれば融資を通しやすくなります。
逆に頭金なしの場合、4500万円の担保しか取得していない段階で、銀行から5000万円のキャッシュが消える事になるわけで、銀行からすればリスクがあります。
もし仮に何かしらの理由で一括返済をしなければならなくなった時、500万円取りっぱぐれる可能性があるというわけです。
銀行融資がなければ物件を購入できない人が大多数だと思いますから、銀行にとって融資しやすい環境を作り出してあげるのも、不動産投資家の役目だと思います。
頭金を入れると、キャッシュフローが良くなる
また、借入総額が減る事で毎月のキャッシュフローが良くなります。
例えば、5000万円で利回り10%の物件を、金利1%で20年で借入して購入したとしましょう。
これを、頭金2割(=1000万円)入れた場合と、頭金なしの場合で比較してみます。
毎月の家賃:約42万円
毎月の返済(頭金なし):約23万円、差し引き19万円
毎月の返済(頭金2割):約18万円、差し引き24万円
で、頭金なしだと毎月19万円だった差し引きが、24万円になります。毎月5万円の差が20年、大きいですよね。

不動産投資で頭金を入れるデメリット
不動産投資で頭金を入れる事のデメリットは
- 一時的に手元のキャッシュが減少する
事です。
手元のキャッシュが枯渇する事で
- 突発的な修繕費用が払えない
- 税金が払えない
など、法人のキャッシュフローが滞る可能性が出てきます。

不動産投資で頭金を入れた方が良い場合
不動産投資の世界で、頭金の効能をメリットとして享受できて、デメリットが少ない場合は頭金を入れる事を検討しましょう。
例えば
- 都内で明らかにオイシイ物件だが、融資が伸びない
- 都内駅近で資産性バツグンだが、キャッシュフローが悪い
という場合は、積極的に頭金を入れて良いと思います。
前者の場合、頭金を入れる事で「銀行融資を通しやすくする」メリットを享受し、オイシイ物件の取得します。
後者の場合、資産性がバツグンという事ですから、頭金を入れる事で「キャッシュフローを改善」するメリットを享受し、あとは持ち続けるだけで安泰です。
もちろん、仮に都内でオイシイ物件をフルローンで購入できたり、資産性がバツグンの物件をキャッシュフローがちゃんと出る価格帯で買う事ができるなら、それに越した事はありません。
しかし、頭金を使って不利な条件をクリアできる物件が都内にあるのであれば、頭金という武器は使って良いと思います。
ここで都内都内とうるさいのは、基本的に不動産投資の世界で頭金を入れた方が良い場合というのは
- 人口増加地域の不動産
に限るからです。この辺については後ほど詳しく説明します。
不動産投資で頭金を入れない方が良い場合
まず大前提として、キャッシュが焦げ付きそうな時は、頭金を入れて不動産投資をしてはいけません。
例えば、毎月こんな家計簿の人は頭金を入れてはいけません。
給料=40万円
支出=40万円
仮に貯金がいまいくらかあったとして、その貯金をはたいて不動産投資を始めて、空室になったり修繕が発生してお金が必要になった時、どうしようもなくなります。
キャッシュが焦げ付かない収支を家計で作る。

さて、本題です。
個人的にキャッシュの焦げ付き以外に、不動産投資の世界における「頭金」で気をつけなければいけないのが、地方の不動産だと思います。
なぜなら日本の地方は100%人口減少が起こり、土地の価値が100%(相対的に)下がるからです。ここで「相対的」という表現を使ったのは、インフレ率を排除して都心部と比較した場合、という意味です。
例えば、こんな物件を購入したとしましょう。
都内物件A:5000万円、利回り8%(家賃年収400万円)
地方物件B:5000万円、利回り10%(家賃年収500万円)
金利1%、20年で借入して購入したとします。Aを頭金2割(=1000万円)、Bを頭金なしで購入しました。
Aのキャッシュフロー:+400万ー220万(返済)=+180万円
Bのキャッシュフロー:+500万ー275万(返済)=+225万円
年間45万円、Bの方がプラスのキャッシュフローを生みます。
頭金が少なくて、キャッシュフローが多いので、投資初期ではBの方が良いですね。
逆にAは、これくらいのキャッシュフローが出る水準まで、頭金を入れて経営を安定させたいところです。
さて、20年後に物件を以下のように売却したとします。
都内物件A:5500万円で売却
地方物件B:1500万円で売却(土地として)
地方物件Bは、投資物件として誰も買手がつかなかった事を想定して、解体して土地として売却する事を想定しました。
すると、この20年の投資の収支概算はそれぞれ
都内物件A:+180万円×20年ー1000万(頭金)+5500万(売却益)
=+8100万円地方物件B:+225万円×20年±0(頭金)+1500万(売却益)
=+6000万円
で、いずれもプラスではありますが、トータルで都内物件Aの勝ちです(厳密には、キャッシュを受け取る時間軸が物件Bの方が早いので、インフレ率なども加味すると結果が異なるのですが、今回は簡単にするために省略します)。
不動産投資の成績はキャッシュフローだけではなく、最後の売却によるキャピタルゲインもかなり大きいです。
その差額によっては、利回り2〜3%なんてなかった事にしてしまうくらい、大きな破壊力を持ちます。
以上から、都内物件Aを頭金入れて購入する事に意味がある、という事は理解できるかと思います。
では一方で、地方物件Bに頭金を入れて不動産投資を開始する事は、ダメなのでしょうか?
僕の中では「ダメではないけど推奨されない」です。
地方不動産の魅力は、潤沢なキャッシュフローと高いCCR(Cash on Cash Return、手残り収益/投入手元金額)であり、投資初期において手元キャッシュを潤沢にしてくれる事にあります。
そのキャッシュを使って
- 別の物件を購入する資金とする
- より収益性の高い別事業へ投入する
など、色々な方法でさらなるキャッシュを呼ぶ事ができます。
逆に言えば、この潤沢なキャッシュを「いかに効率よく回すか」が地方の不動産投資では重要で、パフォーマンス次第では都内の不動産より総合リターンが高くなる場合もあります。
頭金を入れてキャッシュを削ってしまうと、こういった地方不動産投資の魅力が削がれる事になります。

不動産投資における頭金は「アイス」である
地方の不動産投資で頭金を入れた場合、その頭金で買った不動産は値下がりするので「少しずつ頭金は溶けていっている」事になります。

逆に都内など人口増加の地域では、土地の価値は保たれるため、投入した頭金の価値は保存されます。
頭金という名のアイスを、常温で保管するか、冷凍庫で保管するか、みたいな話です。
しかしながら、世の中全体がインフレになった時、株や不動産などは現金に比べて値上がりをするため、地方の不動産価値も上昇する可能性があります。
つまり地方の不動産投資における「頭金という名のアイス」は
- 地球温暖化(=人口減少)の世界で徐々に溶けて価値を失って行くけれど、冬が来れば(=インフレになれば)固まって価値は保たれる可能性もある代物
です。
地方の不動産ばかり買い集めていると、将来的なキャピタルロスを食らう事になります。
少しずつ人口増加地域の不動産も、頭金を入れて買っていく、という方法で
キャッシュフローと将来のキャピタルロスのバランスを取る
というのは、今後の日本の不動産投資業界で非常に重要になってくるのではないでしょうか。