最近、医師のバイトでも安い案件が散見されます。
具体的には
- 当直、3万円/泊
- 外来、5万円/日
など。
流石に当直3万円は、個人的には「ふざけてる」としか思えないレベルに安いと思いますが、Twitterの世界を覗いてみると、それでもやるという人はいるようです。

医師のバイト、安い案件増加中
そんな感じで、医師のバイト業界は安い案件が増加しています。
安いバイトが増加している地域は
- 都心部
です。おそらく医師が集まり過ぎて、価格のダンピングが起こっているのだと思います。
また一部の過疎地域(主に山陰地方?)では、医師のバイト代がかなり安いと耳にしました。
原因は、医師の供給が多いというよりは、人がいない(高齢者すらいない)事による需要の減少のようです。
また、安いバイトに共通している事は
- 寝当直
- 健診
等の「基本的に医師免許さえあればできてしまう業務」です。

医師のバイト、安い案件が増加する理由
そもそも医師のバイト代は、常勤よりも高いのが普通です。
なぜか。
それは、バイトには「気軽に解雇される」リスクがあるからです。
バイトをする医師はそのリスクを背負っている分、バイト代にリスクプレミアムとしてα(円)を追加されます。
X=Y+α
X=バイト代
Y=常勤で同様の労働を行なった場合の単価
α=リスクプレミアム
しかしながら、近年の医師バイト業界では、明らかに「常勤の労働単価」に比べて安いバイト案件が散見されます。
つまり
X<Y
となっているわけです。
こうなるためには
α<0
となる必要がありますが、α(リスクプレミアム)にマイナスの値はあり得ません。リスクプレミアムがマイナスになるという事は、それはもうリスクでは無くなっているからです。
以上から、この計算式では説明できない事態が起こっていると言えます。
医師のバイト代を押し下げる新たな要素「非常勤という自由」
上記の式から言えるのは、
- X(バイト代)とY(常勤の給料)の違いは、単なる価格では無い
という事です。
価格で比較すると、ありえない事が起こっているので、価格以外の要素が「ありえない事」を引き起こしているに違いありません。
僕が思うに、それは「働き方」です。
Yを得るには常勤になる必要があります。
1つの病院で働いて、週5日以上働きます。自分の都合では働き方を自由に決める事ができません。
Xを得るには、常勤になる必要がありません。バイトですから。
週にどれくらい働こうか、どれくらい稼ごうが、自由なわけです。
この「自由な働き方」そのものに、魅力を感じていると、ギリギリ20代の勤務医(執筆時現在)である僕はギリギリ感じ取っています。
もっと噛み砕いていえば
仕事をコントロールして、人生をコントロールする自由
に価値を置いている医師が、価格を無視してバイトに参入し、バイト代を押し下げる力を生んでいると推測しています。
その「下げ圧力」をβとすると
X=Y+α−β
となり、「X<Y」を実現させるためには、上記の等式をこの不等式に代入して
Y+α−β<Y
α<β
となれば、この「X<Y」となる事がわかります。
αは常勤に対するバイト医師のリスクプレミアム、解雇されるリスク評価額を表しています。
βはバイト医師の自由な働き方における価値、そこに対する市場の評価額を表しています。
つまり、医師のバイト(医師免許を持っているだけでできる仕事に限る)で「常勤の労働単価よりも」安い案件が増えた(X<Y)のは
- リスクを取って自由なライフスタイルを得たい医師が増えた
からです(α<β)。
自分の労働を安く売っても、仕事をコントロールし、自分の人生をコントロールるする方が、よっぽど重要だと思う人が、参入しているのでしょう。
医者のバイト代が常勤よりも割高(常勤の給料がバイトより割安)なのは、常勤には無い「気軽な解雇」というリスクプレミアムを支払っているので、至極当然です。
しかし最近、明らかに常勤よりも労働単価の安いバイトが散見されます。
「労働単価が安くても常勤は嫌だ」
という層がいる事です。
— Dr.ラス@お金の外来 (@3n4rs) January 8, 2020
この現象が都心部に顕著なのは、単純に若い医師が集まるからです。
上記のような思考に基づいて行動する医師が若手には多く含まれ、若手医師は都心部に集まるので、必然的にそういった医師が都心部に多いので、都心部でこの現象は顕著です。
この現象が
- 寝当直
- 健診
等、医師であれば誰にでもできる仕事に限定されているのは、やはり専門性という参入障壁があるからでしょう。
逆に
専門医を取得したら、自由に生きてやる
というマインド、つまり専門医取得後に「α<βとなるマインド」を手に入れた医師が増えた場合、専門医レベルでも同様の事が起こると思います。


医師のバイト代はいくらまで低下するのか?
では、医師のバイト代は一体いくらまで低下するのでしょうか?
これは議論がかなり難しいところです。
個人的な予想としては
- 女性医師が増える事
- 人生観の変化
も相まって、若手医師の中ではやはり「自由に生きる」事を重要視する人は、増えると思います。
つまりβは増大します。
しかしながら、今の日本の医療財政や、高齢化のピークから逆算するに、α(リスクプレミアム)も増加します。
そしてαは基本的に少子高齢化社会で、無限に増大していきます。
ある時、α<βという不等式は逆転し、自由を捨ててリスク回避の方向へ医師人材がシフトするのではないか、と僕は思っています。
αの上昇速度と、βの上昇速度は時代とともに変化し、αとβがイタチごっこのように抜きつ抜かれつを繰り返して
地域
専門科
など、カテゴリ別に
α<β
α=β
α>β
と、各々異なる値を叩き出し、それが医師のバイト代に反映されるのでしょう。
しかし、やはり参入障壁の少ない領域の仕事(都心部、医師免許さえあればできる)は、確実に今はβの上昇速度が急峻であり、バイト代の低下はこれからも続くのではないでしょうか。
また、あくまでこの計算式はXとYの相対値です。
医師が余る事によって、医師のもらうフィーが下がるとすれば、それはXもYも低下する、という事を表します。