医者になってから早数年、税金対策目的の営業電話が絶えません。
このページを見ている先生方も、1度は体験した事があるのではないでしょうか。
まあ流石にしょうもない怪しげなビジネスや、金利の高い弱小新興国の外貨預金、投資詐欺のような類のものにはひっかからないでしょう。
しかし

という謳い文句の営業電話があって、心が揺らいでしまった人もいるのではないでしょうか。
ネットで「不動産 節税」とかって検索すると、確かにどうやらできなくもなさそうな事が書いてあるサイトもちらほら。
果たして医師が税金対策目的に区分マンションを所有する事は、有効なのでしょうか?
医師にとって区分マンション投資は節税、税金対策になるのか?
不動産投資が節税になるかどうか、という質問に対しては場合によってはイエスだと言えます。
業者の謳い文句として、医師が不動産投資を行う事の税効果について、大きく分けて2つの謳い文句が存在します。
それは
- 不動産投資に必要な物品を経費で落とせて、本業と損益通算できるから節税できます
- 物件を減価償却すればその分払う税金が安くできます
という2種類です。

医師は区分マンション投資で損益通算、節税?
1のスキームはどういうスキームかというと
不動産投資で赤字を出せ
と言っているわけです。
例えば区分マンションを所有し、年間の家賃収入が80万で、支出がローンの支払いも含めて100万円だったとしましょう。年間20万の赤字ですから、この20万は損失です。
不動産投資は確かに損益通算できますので、この20万は本業の収益と合算する事で、本業の収入から20万少ない額が、あなたの年間稼いだお金になります。その額に対して税金はかけられるべき(マイナスのキャッシュフローに対して税金をかけない)ので、確かに支払う税金は減ります。
しかし、これでは意味がありません。
例えば年収500万だったとして、税金で20%取られていたとします。この人が支払う税金は100万/年です。
不動産投資で20万の赤字を出したので、年収は480万になってしまいましたので、支払う税金は96万/年です。
確かに支払う税金は4万円減りました。しかしながら、年収も20万減ってしまいました。

これを節税だと言うのかという話です。赤字を出してまで税金を支払いたく無いなんて、税金に親でも殺されたのでしょうか。
でも待って下さい。

と不動産屋に言われたとしましょう。
確かに年収は減るけど、手元にローン支払いの終えた区分マンションがあるのなら、それで良いんじゃないか?
と思ってしまいませんでしたか。
確かに先ほどの年収シミュレーションだと年収が税引後に16万減少しました。10年で支払い終えたとして、16万円を10年間の支払い、合計160万円で区分マンションを買ったと思えば安いのでは無いでしょうか。
どうですか?
実は、それは一概には言えません。

医師は区分マンション投資の減価償却で節税→一理ある
2つめの謳い文句である、物件の減価償却による税効果。これは確かに一理あります。
しかし条件がいくつかあります。
物件を減価償却する場合、基本的に償却できる部分は建物部分ですので、建物部分の残存価値がゼロの物件は減価償却できません。
また物件を減価償却した場合、将来的に売却益を得た際に償却部分は税金がかかってきます。
つまり減価償却は税効果を使ったキャッシュフローの繰り延べに過ぎません。

しかし、医師のような高年収で税率が高い場合、減価償却して得られた税効果が、将来的にかぶる繰り延べた税効果を上回る事があります。
例えば控除後の税率が40%の超高収入の医師がいたとします。
1000万の物件を購入し、建物部分が400万だったので、これを数年に分けて減価償却しました。得られる税効果は単純に、400万の40%、160万円だとします。
また物件を5年以上保有して売却すると、税率が20.315%です(執筆時現在)。
7年保有して売却したとして、償却した400万に上記の長期譲渡の税がかかると、支払う税金は約20%=80万円です(厳密には売却価額から土地と建物の簿価を引いて、さらに売却に関する経費を引いた値に譲渡税がかかる)。
このように、収入が高く実質的な税率が20%を超えている人の場合、減価償却による税効果から得られるメリットは確かに存在します。
医師向け「節税、税金対策用」区分マンションの電話には絶対に乗ってはいけない
競売物件を見ているとわかるのですが、地方の区分マンションが結構お安く売っています。
お値段様々なんですが、過去の履歴を見ると2000円とか。

こういうゴミを、160万を支払って手元に残っても嬉しくないですよね。
2000円で買えたものを160万で買うって、まあ大損ですよ。買う価値はないわけです。
ゴミ物件かどうかを見分ける事ができないのであれば、絶対に税金対策目的の区分マンションは所有しないのが吉です。
区分マンション投資は医師のような素人には難しい
僕としては医師のような不動産投資の素人が区分マンション投資をするのは、かなりリスクが高いと思っていて、どうせやるなら一棟ものや戸建が良いと思っています。
理由は明確で、基本的に毎月マイナスのキャッシュフローを抱えているからです。
そのマイナスのキャッシュフローは
- 修繕積立費
- 管理費
の2つです。
1つのマンションを、部屋ごとに分けて所有する場合、当たり前ですがそのマンション全体で見るとオーナーが複数存在する事になります。
50室あるマンションで、1人平均2室持っているならば、オーナーは25人いる事になります。
マンションを維持するのにはお金がかかります。具体的には
- 共用部分の電気代
- エレベーターの管理代
- 修繕積立金
などです。
これらを複数のオーナーが出し合って、マンション全体の管理運営をしていかなければなりません。
この管理費、修繕積立費が区分マンションでは厄介なのです。
地方の区分マンション投資が難しい理由
例えばこんな物件があったとしましょう。
- 都内1K
- 駅徒歩10分
- 築20年のRCでオーナーチェンジ(入居中)
- 家賃は82000円/月
- 管理費は5000円/月
- 修繕積立金は7000円/月
どうでしょうか。
区分マンション特有の、毎月のマイナスキャッシュフローは5000+7000=1万2000円/月で、場所が良いのでまず現況家賃ならば空室は無さそうです。
であるならば、毎月のキャッシュフローは
82000ー12000=70000円/月
ですので、年間84万のキャッシュフローがあり、価格によっては購入検討しても良いでしょう。
ではこんな地方の区分マンションはどうでしょう。
- 地方1K
- 駅徒歩40分
- 築20年のRCで空室
- 家賃は32000円で募集しているが埋まらない
- 管理費は15000円/月
- 修繕積立金は7000円/月
どうでしょうか。
毎月のマイナスキャッシュフローは22000円/月で、現況空室です。
今の家賃で入ったとしても、キャッシュフローは
32000ー22000=10000円/月
で、もしかしたらもう少し家賃を下げないと入居が決まらないかもしれません。
もし入居が決まらなければ、毎月22000円は物件価格とは別に支払わなければなりませんから、赤字のキャッシュフローを抱える可能性があります。
仮に黒字になっても、年間たった12万円です。

このように、医師が電話販売で売りつけられるような区分マンションは安くても、毎月のキャッシュフローが赤字になる可能性の高い物件が多くあります。
詐欺のような新築区分マンションを購入する医師が絶えない
そもそもキャッシュフローが出なくて、出口戦略が取りにくい物件だからこそ、高給取りの素人に


とか言ってなんとか売りつけたいわけです。
それでも

と言われ、ついつい買ってしまう人もちらほら。
毎月の確定マイナスキャッシュフローが存在し、それを自分でコントロールできない。これってすごい怖い事ですよね。
このリスクを、あまり考えていない人が多いのだと思います。
稀に
場所は良いけど内装がボロボロで借りてがいなくて、修繕積立+共益費で毎月赤字のキャッシュフローを垂れ流している物件を、相続で年金暮らしのおばあさんが持ってしまって1円でも良いから売りたい
みたいなものがあります。そういうのならば内装をリフォームして貸し出ししたらうまくいくかもしれません。

賃貸需要がある地域に、入居が決まるような賃料で貸せて、適正価格で購入できれば大丈夫です。
つまり
- 相場的にいくらの賃料が取れるのか
- リフォームにいくらかかるのか
- 空室確率からリスクに見合うリターンがあるかかどうか
を自分で計算して判断する必要があります。
このような築古の安い物件ならまだしも、新築分譲で、ディベロッパーの利益がたっぷり塗られた不当に高い物件を買ってしまうお医者さんも結構います。
最初の2年だけ家賃保証がついていたり、サブリースで一括借り上げだったりして、安心して買ってしまうと。
以上のような、様々な罠が新築区分マンションにはあります。

同じ税金対策なら、もっとマシな方法が他にもありますよ。