僕も30歳を過ぎ、医師としてそれなりに成熟しつつある年齢を迎えました。
そして、最近
- 最近の若手医師の感覚
が、少しずつわかってきました。
というか、わかっていた事の「それっぽい因果関係」が結びついて、全体像が浮き上がってきました。
いわゆる「最近の若いもんは〜」みたいな話は書きません。
今回は
- 客観的に見て、何が違うか
- その原因は何か
について書きました。
若手医師は「嫌な事をやらない」のを最重要視
先日、このようなツイートをしました。
今の若者は「嫌なことをやらない」のが最優先。
嫌な事をやるのは「自分らしく生きる」事を最も阻害するので。
そのために必要最低限な豊かさあれば良く、ブランド服よりユニクロ、フレンチよりマック、結婚と子供は可能な範囲で、程度。
— Dr.ラス (@3n4rs) August 5, 2021
これは、若手医師何人かとじっくりとフランクに話してみて、僕が感じ取った事です。
僕にも、ちょっとわかります。
若手医師のキャリア選択のトレンド
嫌な事をやらないためには、基本的に全ての選択がネガティブセレクションになります。
初期研修医が
「これを一生やるのかと思うと、この科は無理でした」
って言うのを、たまに耳にします。
基本はネガティヴセレクション。でもそれが彼らの価値観には合致している。
— Dr.ラス (@3n4rs) August 6, 2021
自分が「嫌だなあ」と感じる内容が、どれだけ散りばめられているか。
その数、質。
これらを感じ取って、若手医師はキャリアを選択します。
若手医師にとっての「嫌な事」と言えば、基本的には
- 労働時間が長い
- 給料が少ない
- 体力的にキツい
- 汚い
- 仕事そのものが面白く無い
などでしょう。
若手医師に限らない?若者全体のキャリアトレンド
この「嫌な事をやらない」事が、若手医師に限らず若者全体で基本的なキャリアトレンドになっている理由は、明確です。
生まれてこの方、頑張らなくても、満たされていたからです。
日本という先進国において、特別頑張らなくても、空腹は満たせるし、屋根の下で寝泊まりする事はできます。
生物として基本的な欲求である「ただ、生きていく」という事に対して、あまりにもイージー。
400キロカロリーの美味しい菓子パンは、1個100円で売っています。
YouTubeというエンタメは基本無料で、何かを調べたければGoogleで検索すれば良いし、誰かと繋がりたければSNSを使えば良い。
そういう環境で育ってきたので、生物として「乾き」が無い、というわけです。
モチベーション革命という書籍の中では、彼らの世代を「乾けない世代」と表現していますが、これは必要十分に彼らを表現したワードだと思います。
生物として乾いていないから、上昇や拡大にあまり興味がない。
戦争しまくって領土を広げて、女を抱いて子供を増やして、経済を発展させてゴリゴリいくぞ、みたいな考え方がない。
言ってしまえば、旧来の資本主義からの脱却を「気がつかないうちに」してしまっている、その傾向がある層、とも言えるでしょう。
書籍の中の定義によれば「乾けない世代」は、執筆当時で30歳以下とされていますから、概ね平成元年うまれより若い世代、という事になります。
僕はこの世代に入っています。
権力、財力、知力、筋力、女、みたいな価値観に生きてきた僕の上の世代と、ちょうど僕くらいから始まった「乾けない世代」の流れ、その中間に位置しているのが僕という存在なわけですね。
僕は彼らの気持ちもわかりますし、彼らも僕のような「狭間の人間」に興味を示すのも、理解できます。
最優先する「嫌なことをやらない」のを実現するために
では、嫌な事をやらない、という事を貫くにはどうしたら良いでしょうか?
最低限、生きていくだけのお金があれば良いんです。
だから、近年になって「いかにして嫌な事をせずに、生きていくのに最低限のお金を稼ぐか」が注目されているわけです。
FIREとか資産運用とか、不動産投資とかインデックスファンドとか。
お金は「嫌なことをやらない」ための道具であって、その目標を達成するためにお金を稼ぎたい。
これが、今の若者の心理的なトレンドだと思います。
僕には彼らの気持ちがよくわかる。
モチベーション革命という書籍では、平成元年生まれ以降を「乾けない世代」として、生きるのに乾いた経験がない世代としている。
僕はその先頭に近くに位置している。
お金は嫌な事をやらないための優秀な道具であり、だからこそ最近注目されていると思う。
— Dr.ラス (@3n4rs) August 7, 2021
若手医師のキャリア選択のトレンドは、変わらない
この「嫌な事をやらない」のを優先するキャリアトレンドは、変わらないでしょうし、変える事はできないでしょう。
なぜならば、その原因が「育ってきた時代と環境」にあるからです。
心の奥底に、染み付いているわけです。
三子の魂百まで、と言われる「人間」という生き物に、20年生きてからいきなり変わってくれなんて、無理な話です。
これからも若手医師のキャリア選択は、より今の傾向が顕著に現れるだけで、診療科目ごとにおける人材の偏在は、これからも進む一方でしょう。